深 聞 録-恵岳遺稿-

 故恵岳師は蓮光寺11世住職です。師が生前に書き留めた法話の原稿から、心に留まった文章を紹介しています。

日々に思う

蓮光寺11代住職故恵岳老師

(前略)先頃、二、三日前にデイサービスへ同車したAさんの名が新聞のお悔やみ欄に載っており驚きました。 幸せな人生の終わり方は如何にあるべきか改めて考えさせられました。 Aさんは認知症の様で現在日本の抱える大問題です。現在日本の認知症患者は、約四百六十万人、さらに将来八百万人程にもなるとも言われています。

 認知症に対して、本人、家族、社会がどう対応していったらよいか大きな問題です。認知症はまず早期発見が大切で物忘れが多くなり心配になったら恥ずかしがらず、早期に医師の診断を受けるべきです。
アメリカの認知症研究では早期に対応すれば五人の軽度認知症患者のうち一人は正常に四人は現状が維持できると発表しています。
フランスから来日した認知症の専門医は患者治療の指導の中で身をかがめ、そっと患者に触れ、目線と目線を合わせ、やさしく話しかけ、今まで寝たきりの患者を立ち上がらせ、歩かせました。家族は喜び娘さんは泣いていました。その他驚きの対応の成果をいくつも見せました。やはり、家族近隣の人々がいかに対応するかが大切です。

 浄土真宗の法話テープの講師の話です。お念仏を喜ぶ婦人が「先生私このごろ認知症までいただきました」と講師に話しかけてきたそうです。その婦人がその後どの様な人生を送られたかわかりませんが、認知症になったと落ち込み閉じこもったり荒れる日々を送られたとは思いません。認知症も仏様からの頂き物と大らかに受け取れば認知症治療に良い事になります。 

 真宗大国と言われる北陸にお難儀様と言う言葉があった様です。難儀「苦」の元は煩悩、煩悩の苦があるからこそ仏様の救いがあるのです。苦の果てに死があってもそれは浄土への往生、怨親平等、安楽寂静、永遠の命の世界に生まれるのです。正信偈に「不断煩悩得涅槃」とあります。煩悩を絶たずして涅槃(救いの世界)に入ると言うのです。仏法は聞き重ねて分かります。信ずる事により正しくは信をいただく事により往生浄土の大道は展開しているのです。

 記憶力が衰えた認知症の人も人間らしく幸福に生きたいと言う意欲は失われないそうです。Aさんの晩年の心中に仏様に生かされている、大悲を仰ぐ心が少しでもあったらと思います。